2010年5月6日木曜日

書評:機関車トーマスと英国鉄道遺産


鉄道にはさして興味がない人でも、「きかんしゃトーマス」はよく知っているという方は少なくないことと思います。日本でテレビシリーズがスタートして、今年2010年でちょうど20年。最初のシリーズで育った子供もいまや社会人になっているわけですから、幼児向けコンテンツの定番作品といえるでしょう。その「きかんしゃトーマス」、母国英国では本物が走っているってご存じですか?

いや、本物といってもしゃべる蒸気機関車が実在するわけではないのですが、あのユーモラスな顔を前面に掲げ、鮮やかなブルーの車体に身を包んだ豆タンク機関車が、いまも鉄路を元気に走っているのです。

英国はご存じの通り、鉄道発祥の国。それをほこりとする気持ちは彼の国の人々の中に浸透しているようで、その気持ちの表れの一つが、この“本物のトーマス”ということなのでしょう。

そんな「きかんしゃトーマス」の足跡をたどりながら、英国内で行われている鉄道遺産保存活動を巡っていくトラベルエッセー「機関車トーマスと英国鉄道遺産」がこのほど、集英社新書から発売されました。


「きかんしゃトーマス」シリーズが始まったのは1990年ですが、原作である絵本「The railway series」がリリースされたのはなんと第二次世界大戦の終結から間もない1946年のこと。その和訳「きしゃのえほん」(ポプラ社刊)は1973年から74年までにかけて、原作全26作中15巻までが発売されました。

実は私、この日本語版の初版本をリアルタイムで購入、全巻所有しております(ただし実感お納戸の奥深くに埋もれているはずで…)。その刷り込みは結構強烈で、いまだに「ヘンリー」という名前を聞くと緑色の機関車、ジェームスなら赤い機関車がまず頭に浮かんでしまうくらい。細かいストーリーまできっちりとは覚えてませんが、すばらしいおとぎ話だった印象はしっかり残っています。

その作品作りにかける原作者・ウィルバート・オードリーのこだわりは、実はリアリティの追求だったというのは意外な気もします。多少のデフォルメはありますが、物語の中で起こる事件や事故も、実際に起きた物から引っ張ってきているそうです。それ故になかなか筆が進まないこともあったようで、26巻発売するまでに26年かかったそうです。でもそんな本物志向だからこそ、そして母国ならではのバリエーションに富んだ機関車群の存在があるからこそ、物語に深みが与えられたのでしょうね。

本書にも特別に取り上げられていますが、わたしも路面機関車トビーを見たときは、「絶対これは創作」と思いましたから。でも、あんな機関車もちゃんと実在したそうです。唐突に出てくる印象のナローゲージ鉄道の物語も、ちゃんと意味があって挿入されているんですね。

また、実は英国独特の鉄道事情を知らないと、物語の細部まで楽しむことが出来ない事実も、本書で初めて知りました。民間鉄道による乱立時代の名残がしっかりと刻まれていたり。このあたりは日本語訳では調整されているのでしょうが。

鉄道に興味がある方はもちろん、鉄道という産業文化を生み出した英国の一面を覗ける一冊としても有意義な一冊と言えるでしょう。

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