2010年6月8日火曜日

書評:撮らずにはいられない鉄道写真


鉄道趣味が公に認知されつつある喜ばしい流れがある一方で、立ち入り禁止地帯に入って写真を撮ったり、時に運行を妨げる愚挙に走る“ニセ鉄道ファン”の存在は、端から見ていて嘆かわしいばかりです。より迫力のある写真を、ほかじゃ撮れないアングルをと望む気持ちはよくわかるのですが、鉄道はあくまで“乗ってる人のもの”であることを忘れてはなりません。

鉄道ファンとはとりもなおさず、「走る鉄道」なしに成立し得ない存在であることを、常に心得なければいけません。何より鉄道が走る様に最大の敬意を払うことが求められることを、ファンを名乗る私たちは今一度確認する必要があるでしょう。

ちょっと説教じみた書き方から入りましたが、それでも「ほかじゃ撮れないアングル」を求めようとする“撮り鉄”たちの欲望はそう簡単に消えるものではありません。そんな好奇心を、意外な形で満たしてくれる撮影法を教えてくれるのが、今回紹介する本「撮らずにはいられない鉄道写真」です。

鉄道写真は鉄道が主役の写真。何を当たり前なことを思われることでしょう。でも、この本の中に出てくる写真のほとんどにおいて、この当たり前の常識が見事に打ち破られています。

そのアングルのどこかに、“鉄道にまつわる何か”が確かにはまってはいる。でも、鉄道車両が写っている写真では、その存在はあくまで引き立て役。別の言い方をすれば、鉄道を媒介としてあるときは日常の情景を、あるときは季節そのものを、あるときは時の流れを巧みに表現していこうというのが著者である写真家・中井精也氏のテーマと言えるでしょう。

壮大な大自然のほんの片隅をゆっくり進むディーゼルカー。白鳥の群れが集う雪原の向こうを雪煙とともに走り抜ける新幹線。昭和情緒が残る下町の一角にひょっこり顔をのぞかせる都電。ホーム上でブルートレインを見送る真っ赤なコートの女性。

これまで何万枚もとり続けた撮り鉄でも、「その考えはなかった」構図がこの1冊の中に詰まっています。立ち入り禁止区域に足を踏み入れる前に、まだ誰も知らない撮影ポイント、探してみませんか。

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